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「花火降る夏」

 くたびれて、帰り道の図書館でビデオを借りて見てしまった。陳果(フルーツ・チャン)監督の香港三部作の二である。原題は「去年的煙花特別多」。香港返還前後の物語。

 予告編(2012年7月2日追記)。

 ストーリーは、英国の軍隊が香港返還に伴い解散する(んだと思うのだが)ので解雇されてしまった男たちの話で、一向に職に就けず(そのわりに海岸でぷらぷらしているのが楽しそうだ)、主人公(トニー・ホー)が弟(サム・リー)の手引きで黒社会に就職する(としかいいようがない)、銀行強盗をする、などいろいろなことがある。しかし、実は、この映画の主人公は人間ではなく、返還前後の香港そのもの。
 主人公の住む家の窓から見える香港の風景、ご飯をたべている店(「鳴謝」に北角の東寶小館が出ている)、車が走っていく中の街の風景、トラムの中、などなど、背景にはほとんど常に香港がある。そして、返還のときのテレビの画面、花火を見に集まる人々、明け方にやってくる解放軍などなど、返還前後の香港がみっちり詰まっている。
 もともと香港が見たくて借りたビデオなので、ドラマ部分は早送りしてしまおうと思っていたのだが、ほとんど早送りする箇所がない。特にぐっと来たのは、今は亡き啓徳空港から飛び立った飛行機の窓からの風景をずっと映しているシーン。あのころの九龍がビクトリア湾が香港島が眼下に広がり、図書館で泣きそうになった。主人公たちが解放軍に敬礼するシーンも胸に迫るものがあったなあ。何というか、返還に際しての香港人のいわくいいがたい気持ちが描かれている気がして。
 詳しい事情は知らないのだが、おそらく監督は返還前後に思いっきりあちらこちらを撮りためていたに違いない。場面によっては花火のシーンに登場人物が写り込んでいるので、同時に撮影していたのかも。そして、もちろんドラマも描きたかったのだろうが、一度しかない97年の香港を映画に閉じこめたかったに違いない。
 公開当時はあまり思わなかったのだが、今にして思うと、いい映画だなあ。
 あと、本筋と関係ないところで好きなのは、最後に主人公が暴れるのが中環の蓮香楼であるところ。あれ、けっこう物が壊れているけれど、一体どうやって撮ったんだろ。監督は常連さんなのだろうか。ああ、行きたいな、蓮香楼。

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