「リスニングテスト」のコストパフォーマンス
あまり時事ネタは扱わないのだけれども、たまたま内情を知ってしまったのでエントリ。
昨日今日と大学入試センター試験が全国で行われ、とりわけ、今年から英語にリスニングテストが導入されるということで、いくつかニュースになっていた。
英語リスニング、故障などで436人が再テスト
「性善説に立っている」センター部長、謝罪なし
英語リスニングテストの受験者は約50万人。そのうち機器故障が約500ということは、故障率は約0.1%。
二番目のニュースは「再テストの申し出があった者は不正とは判断せず、すべて再テストとした」ということで、趣旨が違っている。
ちなみに、この再テストというのは、途中で機械が動かなくなったり突発事故(騒音で音が聞こえなくなるとか)が起こった場合、「事故が起こって聴けなかったところから」試験終了後にテストが受けられるというもの。同じ箇所は2回聴けないというシステムになっている。どうするかというと、試験官が1人「タイムキーパー」となって試験中同時に聴いており、「聞こえない」という申し出があった時間(必ず記録する)に何番をやっていたかを判断して(受験生にも「何番までやった」と申告させる)そこから受験させるのである。
ということは、タイムキーパーのぶん人手が不足になるので、リスニングテストには「機器係」が新たに動員され、受験生50人当たり約3名の試験監督がつく。つまり、「受験生50万人÷50×3=3万人」ぐらいの試験会場校の教職員が監督として動員されるわけである。このほか室外監督員や試験本部の人員も入れると、かなりの方々が試験のために働いたということになる。
ここで書きたいのは、このリスニングテストにどのぐらいのコストがかかったのかということ。
まず人手の点で言うと、上記の3万人は、もれなく説明会に出なければならない。この説明会がリスニングとセンター試験と2回あって、合計すると3時間はかかる。さらに、リスニングテストだけで拘束時間は3時間以上、さらに、マニュアルが、「試験監督要領」「リスニングテスト事故対策」「再テストマニュアル」その他訂正や補足と山のようにあり(約200ページ)、読みこなすのに1時間以上かかる。
つまり、リスニング試験の監督者は7時間(ほぼ1日)は監督のために使わなければならない。大学の教職員なので、当然並行して他の通常業務(そろそろ年度末で忙しいと思うのだが)があり、業務に支障が出る。そのぶん本来の仕事ができないからね。
さらに、上記の時間にはマニュアルの作成のための時間や騒音対策の時間は含まれないので、実際にはもっと多くの時間が使われていることになる。ニュースで、飛行機が飛ばないようお願いに行っている琉球大学とか、ちょうどリスニングテストの時間に学内のねぐらに帰ってくるインコの鳴き声防止のため数十万円かけて窓を塞いだ東京工業大学の例を見たが、入試担当の皆さんの心労を考えると涙が出そうである。
時間的には(精神的・肉体的にも)、3万人×1日の労働量より、さらに多くの労力が費やされているわけだ。
さらに、資源の点から見ると、リスニングテストには受験者に1人ずつ特製ICプレーヤーが配られる。お持ち帰り可(かなりの受験生が持って帰った模様)で、そのぶん受験料が値上げになったらしい。でも、モノラルで、メモリーカード専用で試験に特化されていて、ストップボタンもない(プラスドライバーで電池ボックスを開ければリセットできる)ので、ゴミになる可能性大。さらに、200ページ×3万人以上=600万枚以上の紙がマニュアルに使用された計算。えらく資源を使っているよねえ。プレーヤーのメーカーは、ほくほくだろうけれど。毎年50万台だもの。
このようなコストは、すべて「全国で」「同じように」「平等に」「間違いがないように」「文句が出ないように」できるかぎり周到に事を運ぶために使われたわけ。
でも、相手は機械だし、0.1%ぐらい故障がでることは十分ありうるし、不正と事故の見分けを完璧にできるかも疑わしいし、絶対間違いがないように公平に50万人規模のテストをすることが可能なのか、激しく疑問を感じるのである。最終的には「自分のところで事故がないように」幸運を祈るしかないんだもんね。
どんなにコストをかけて周到に準備をしても完全解決は不可能。
しかも、その要因はICプレーヤーによるところ大。
だったら、コントロールしやすい大学単位で二次試験にリスニングを課すか、受験生(と親)に因果を含めて強力スピーカーをレンタルする方が効率的というものでしょう。
「公務員削減」とか言っているけれど、国公立大学はすでに法人化しているけれど、これらのコストは税金から出ているのです。はっきり言って激しくもったいない!と強く思うのです。
「間違いは絶対ない」という発想もこわい。
人間がすることなのに。
特に意味はないイメージ写真。
(元ネタはこちら)。
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コメント
色々と大変だったのね。センター試験!!
うちの息子、なんとか一浪後、去年の四月に大学生になったので、今年はセンター試験は無関係。二浪していたら、この記事もひと事ではなく読んだでしょう。。。
ところで、私も義兄弟になりました。
詳しくは拙ブログへお越しください。
投稿: 桂花 | 2006.01.22 20:59
いや〜、大変です。センター試験。
というか「文句を言われまい」とするあまりの準備、
周到すぎです。ほんとに。
誰より受験生が大変だったことでしょう。
ところで、見てきましたよーん、ふっふっふ。
どんどん広がる兄弟姉妹の輪。
レポート楽しみにしていますね!
名前は…「よん様」「よんちゃん」あたりは
如何でしょう。
投稿: きたきつね | 2006.01.22 21:15
いろいろと、書きたいことはあるのですが・・・
センター試験関係者の、目に付きにくいお仕事には感謝感謝です。
とりあえず今日のところは・・・笑顔でした。
わたしは、三人官女にちなみたいなぁ@兄弟姉妹茶壺♪
投稿: smash | 2006.01.22 23:40
ああっ、そうか!そうですね。
なんとか無事にすんでよかったよかった。
ところで、三人官女に名前はありましたっけ?
投稿: きたきつね | 2006.01.22 23:50