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若冲先生とデート

 東京で絶対行こうと思っていたのが、東京国立博物館での「 プライスコレクション 若冲と江戸絵画展」。
 むかし「果蔬涅槃図」を見て、なんだこの人は、と思って以来、とても好きなのだ。二股大根のお釈迦様を囲んで嘆き悲しむ野菜の弟子たち、という、ふざけた絵なのに、いいのよ。いっぺん生で見たかったのよ>伊藤若冲先生。
 というわけで、いそいそと会場へ。平日の午前中なのに、けっこう混んでいた。展示は5室に分かれていて、若冲先生はそのうち1室のみ。その1室に2時間以上入り浸る。
 生の絵を見る最大の喜びは、筆の跡を目で直接辿る快感だと思う。筆の跡を辿っていくと、なんとなく描いた人の目や手と同化できるような気がするのだが、入ってすぐ右にあった「花鳥人物図屏風」と「鶴図屏風」が、もう気持ちよくて気持ちよくて。墨だけで描かれた筆致がいろいろで、目つきの悪い烏や正面向きの間抜けな鶏や瓢箪と同化したような李白先生はもちろん、背景の植物の筆致がそれぞれ違っていて、飽きない。くれるものなら(くれないけど)、是非欲しい。
 たぶん、最大の呼び物は、4万3千個の升目で描かれた「鳥獣花木図屏風」だと思うのだが、たしかに、「これ、どうやって描いたのだろう」とか「このポケモンみたいな動物は何」とか「その後ろにいる角が1本で白い毛がもふもふした君は何だ」とか、間抜けなヤマアラシとか麒麟とか虎とか豹とか、空だか海だかわからないところを泳いでいる謎の獣とか、見所が満載で、やっぱり30分以上見てしまったのだけれど、これは家には荷が重い。コレクターであるプライスさんのお宅には、この屏風をそっくりタイル画にしたお風呂があるらしいが、それは羨ましい。
 有名な絢爛豪華な鶏もいいのだが、どちらかというと、水墨画のほうが欲しいかも(くれないって)。
 ともあれ、早々に家督を弟に譲り絵に打ち込んだという若冲先生、きっと動物好きで、ちょっと変な(褒めている)人だったんだろうと思う。お会いできて嬉しゅうございました。
 
 あとは、いろいろな作家の「猛虎図」が見られたのが楽しかった。間抜けでかわいいのが多いのだ。虎は現物が日本にいないので剥製をモデルにしたらしいのだが、動きが明らかに猫(たぶん画家の愛猫)なんだよね。長沢芦雪のは人が入っているようだし。芦雪先生は、巨大な動物を無理やり屏風に押し込めたような「白象黒牛図屏風」もよかったなあ。見た瞬間、爆笑。そばに白い狆みたいな犬が横座りしてるし。芦雪先生も動物好きに違いない。
 「白象黒牛図屏風」は「ガラスを隔てず、自然光のように変化し陰影のある光で(たぶん昔のように)見る」という展示室で見たのだが、この展示室もよかった。金箔がうっすら光るのを、お座敷で灯明で見られたらいいのにと思う。屏風とともにお座敷で過ごす一夜、とか、どうかな。デポジット、高くてもいいぞ。
 カルフォルニアのプライス邸「心遠館」には、光を変える仕掛けがしてあるらしい。ちなみに、プライスさんは、すべての展示をガラスなしで、と当初主張したとか。集めたものといい、センスのいい人である。
 
 そんなこんなで4時間以上遊んでしまい、とっても楽しかった。

20060808jakuchu
 売店で思わず爆裂。

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コメント

札幌で生ダリを見て、『筆の跡を目で直接辿る快感』を知りました。
だからこの記事を読んで、きたきつねさんが惚れた若沖先生の筆も見てみたくなりました。
それにしてもきたきつねさんの記憶力はすごいです。
それだけ物事に真剣に取り組んでおられるのだなぁと。
とてもとても納得。

投稿: smash | 2006.08.08 22:42

ありがとうございます。
しかし、記憶力は悪いのです‥
実は、図録や絵葉書や一筆箋を買い込んでしまい、
図録をうはうはと眺めていたのでした(ぽりぽり)。
でも、若冲先生はほんとにいいんですよ!

投稿: きたきつね | 2006.08.08 23:12

ご無沙汰です。
生若沖、ご覧になったのですね!
やはりあのモザイク画のような鳥獣画は見ごたえありそうですね?羨ましい!
昨日友人と“誰でもピカソ”やNHKの話で盛り上がりました。
雑誌でプライスさんちのお風呂も見たし…。(お金持ちですよね!)

まだ東京ですか?
こちら暑いですぅ…明日もだって!

投稿: hanatya | 2006.08.08 23:14

おはようございます。
暑くて早々と起きてしまいましたが、札幌も暑いんですね‥。
生若冲、よかったですよ~。
「誰でもピカソ」、見ている方多いんですね。
会場でもずいぶん耳にしました。
あんまりブームにしてほしくない気もするのですが。

投稿: きたきつね | 2006.08.09 05:43

窓からポケモンジェット(たぶん)が見えます。
きたきつねさんが乗ってたりして…。

私も若冲を知ったのはこの頃なんですよね。
たぶん国立博物館の宣伝に乗せられてると。
国立博物館、大中国展に行きました。
東洋コレクションに寄って疲れて、はしごするつもりだった大兵馬俑展には後日出かけました。
ガラスがなくて兵馬とも近くで見れたのでうれしかったな。
その時の男前の文官俑の事をしつこく話すんで友人が凄く見たがってる。
きっと違う風に想像してると思うけど。
去年は九州国立博物館の中国展もでかけアジア美術館でも兵馬俑…。ああ後は中国!

投稿: hanatya | 2006.08.09 11:24

残念ながら、帰りの飛行機は普通の飛行機でした。

たしかに、今回の若沖先生の宣伝、すごかったですね。
『ブルータス』でも特集組んでるし。
でも、どちらにしても、若沖先生は変でよいです。

兵馬俑、江戸東京博物館に来ていたのですが、
根性が続かず、行きそびれました。
ハンサムな文官さんは、お土産でコースターがあります。
直接見たかったな〜

投稿: きたきつね | 2006.08.09 23:01

おはようございます。お久しぶりです。
無事に帰着されたようで何より。

若沖先生、私も観に行きました。
やはり、水墨の線の美しさは身震いしてしまいますね。
もし、9/10までに東京にいらっしゃる事がありましたら、宮内庁の三の丸尚蔵館へ是非。タダで若沖先生が見られますよ〜。

http://www.kunaicho.go.jp/11/d11-05-06.html

投稿: | 2006.08.10 08:53

ごぶさたしています。
東京は相変わらず暑いでしょうか。
宮内庁…それは盲点でした。
今回の状況は展示替えにぶつかっていたようですが、
花鳥画が中心だったのですね。うーん、残念。
でも、若沖先生は、
水墨画がやっぱりよいような気がします。
あの線はすごいですよね〜!

投稿: きたきつね | 2006.08.10 22:45

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