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杉浦日向子さんの新刊

 東京に滞在中。日曜日に仕事が一段落したので、2日ばかりお休み(明日はまた仕事をして帰るのだが)。人に会ったり、買い物したり、持ってきたDVDを見たり、博物館に行ったり、本屋に行ったり、本を読んだり。しばらく暇にしていなかったので、初めはちょっと時間と集中力の使い方がわからなかった。本屋で読みたい本をばっと買って読みふけるという贅沢をし、我にかえる。
 そのうちの一冊、『うつくしく、やさしく、おろかなり—私の惚れた「江戸」』(筑摩書房)は杉浦日向子さんの新刊である。亡くなってから1年たったんだな。
 あちらこちらに書かれたエッセイや談話を渉猟し、縁の深かった編集者の松田哲夫さんが編集したものらしい。松田さんによるあとがきも胸を打つ。装丁は南伸坊さんという豪華メンバーである。タイトルは、ちくま日本文学全集「岡本綺堂」のあとがきからとったもの。
 講演録がいくつか入っていたりするせいか、斜にかまえることもなく、とてもまっすぐな語り口で江戸を語っているものが多いような気がする。冒頭「神田八丁堀」の「今生きてここにある自分は、江戸が好きでたまらないけれども、もし、今より少しでもずれて産まれていたなら、たぶん江戸には巡り会わなかったと思う。(中略)命の咲くタイミングに、時差があるとは信じない。(中略)昨年、手前勝手に「隠居宣言」して以来、いっそう「ああしたい、こうしたい」という欲とは縁遠くなった」というくだりは、「隠居宣言」が難病を得てからだと知った今、胸を打たれる。きっと、いろいろなことを考えていらしたのだろうなあ。『ガロ』に書かれた「無能の人々」もいい。たぶん、「執着」ということが心底苦手だったのではないか。
 杉浦さんの本で一番好きなのは『江戸アルキ帖』(新潮文庫)なのだが、この本もとても好き。東京で読めてよかったと思う。でも、もっともっと新刊を読みたかったな。

20060808hinako
 神保町の「さぼうる2」にて。

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