恩田陸を読む
この夏は恩田陸をずっと読んでいた。
もともと、「恩田陸にはずれなし」と思っていた。ミステリ、SF、ホラーその他、お話を書くのが好きで好きで、毎回チャレンジしているという感じがよい。文庫が出ると買っていたのだが、なかなか読めなかったの。
出張に『三月は深き紅の淵を』を持っていったのがきっかけで、その後続けて読むことに。
『三月は深き紅の淵を』(講談社文庫)
同名の幻の本が中心になった4章。第1章では存在せず、第2章では既に書かれており、第3章ではこれから書かれようとしており、第4章では…結局、本はどこかへ消え去っていくような。
おそらく、恩田さんはこのタイトルがとても好きなのだろうなあ。4章は小説かどうか微妙でおもしろい。
『麦の海に沈む果実』(講談社文庫)
『三月は深き紅の淵を』4章で断片的に書かれているらしい話。架空の釧路湿原(ではないかと思うのだが)にある謎めいた寄宿学校を舞台にした学園もの。「紅い表紙の本」が登場する。
『黒と茶の幻想』(講談社文庫)
『三月は深き紅の淵を』の第1章と同じタイトルで、書き出しは『三月は深き紅の淵を』4章で書かれているものと同じ。40歳手前の同級生4人が代わるがわる語り手になる。『麦の海に沈む果実』の登場人物もキーパーソンとして出てくる。これは片思いの話なんだろうなあ。
『図書室の海』(新潮文庫)
短編集。『麦の海に沈む果実』の前日譚や『六番目の小夜子』の番外編や『夜のピクニック』の予告編が入っている。お買い得。
『夜のピクニック』(新潮文庫)
先日やっと文庫化された。第2回本屋大賞受賞作。ある高校の80キロを24時間かけて歩き通す「歩行祭」を舞台にした1日の物語。24時間歩くだけなんだけど、ほんっとに「どうしてこんなに特別なんだろう」。生真面目で不器用な融くんと、ぼーっと悩んでいる貴子ちゃんが主人公なのだが、「もっと青春しておけばよかった」という融くん、君たちは立派に青春してるよ。で、あと10年たっても20年たっても人生は続くのであるよ。
24時間がなんだか人生のアナロジーのようでねえ、融くんじゃないけど、今度生まれ変わったら共学で青春したいぞと思っちゃったりしてねえ。ああ、いい話だ。
クラスメイトの光一郎くん、忍くん、美和子ちゃん、杏奈ちゃん、とってもグッジョブである。全部読んでから忍くんの視点で読み直すと味わい深い。特に忍くんには是非今後がんばってもらいたいものである。
…と読み終わって反芻していたら、すでに映画化されていて、Yahoo!映画 で特集されていたので驚いた。スーパーガールの美和子ちゃんはジョイ・ウォンに似た美人。忍くんがいい男でよかったよかった。観に行こっと。
追記:
ネットで感想を拾い読みしたら、賛否両論。「否」の意見は「いい人ばかり」とか「つくりものめいている」とか。驚いたのは、文庫の解説を書いたある人が、全く知らない読んだことがない状態で引き受けて、海外まで本を送らせた揚げ句、捨てたの何だの悪口(に読める)をネットにアップしていたこと。だったら断れ、引き受けたんなら陰でぐちぐち言うな、と思った。否定派の人は「現実はこんなものではない」とか「深みがない」とか言いたいらしいのだが、面白い話を書けるのは立派な芸なんだからいいじゃないの。私はお話が読みたいんだ。
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