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「善き人のためのソナタ」

 最近はあまり映画館に行けず。wowwowで放送したのを録画しておいて、やっと観る。
 1984年11月の東ドイツのお話。国家保安省(シェタージ)が国民を監視していた時代。国家保安省の社員食堂で政治的なジョークを飛ばしただけで、「名前は?部署は?どうなるかわかってるんだろうな?」と言われ、冗談だと言われても全く洒落になっていない(このジョークを飛ばした兄ちゃんは後からまた出てくる)。「おまえは退役まで地下室で郵便物の開封業務だ」と言われたら、ほんとにそうなる。まあ始末されず仕事があるだけましとも言えるけど。実際にこのような国家が存在し、またそうなる可能性があることは覚えておいた方がいい。
 主人公はシェタージの大尉。冷徹に監視・尋問を行い続ける。40時間尋問をし続けても(もしかしたら途中で交代しているのかもしれないけど)1日2交代で盗聴を続けても倦むことなく、いつもシャツのボタンをきっちりととめ、殺風景な部屋に帰る毎日。

20071208cinema
 こんな人。

 しかし、部下がどんなに体制に忠実に働いていようと、上層部はどんな社会であっても腐っているもので、女優によこしまな気持ちを抱いた大臣の命令で、その女優の恋人である劇作家の部屋を盗聴する任務を負う。留守中に盗聴器をしかけ(近所の人には秘密を守るよう脅しをかけ)、建築中のような荒れた部屋でヘッドホンに集中しタイプする毎日。
 盗聴するうちに、ブレヒトを読むようになり、音楽「善き人のためのソナタ」に涙するようになり、人恋しくなり、だんだん人間らしくなっていく…ということは、組織の求める人間からは乖離していくというわけで。悲劇が起こる。
 しかし、ときは1984年。1989年11月9日にベルリンの壁が崩壊し、体制も崩壊したのであった。

 主人公のやっていることは決していいことではないのだが、だんだん人柄が変わって行くに従って、「おっちゃん、だいじょうぶか?それでやっていけるんか?」と心配になる。冷徹そうだけど実は悪い人ではないんだろうなあ、と思わせるような味のある顔をしているし。
 いろいろあった末のラストシーンは、「ああ、よかったね。ほんとにそのとおりだね」と心から思ったのだった。

 びっくりしたのは、盗聴記録がきっちりファイルされて残っていて、壁崩壊後は本人が閲覧可能なうえ保安省の人間のデータもわかるというところ。年金記録も残っていないどこかの国とはえらい違いだ。

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