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『村田エフェンディ滞土録』

 梨木香歩さんの『家守綺譚』がとても好きだ。明治の貧乏文士綿貫のお話。琵琶湖で行方不明になった親友高堂の実家に住んでいるのだが、この家にはいろいろ不思議が起こる。懸想するサルスベリをはじめ、その日常が淡々と描かれているのがとてもよい。特によいのは焦げ茶色の名犬ゴローで、河童その他のあやかしにも人望(犬望?)があつい。
 『村田エフェンディ滞土録』は、『家守綺譚』と地続きで、トルコに渡った考古学の徒である村田のお話。かなり前にハードカバーで買ってあったのを、トルコから帰って来てちびちびと寝る前に読み、やっと読み終わった。
 村田はイスタンブール旧市街のイギリス人の婦人が営む下宿に寄宿するのだが、前半は、同じく考古学者であるドイツ人のオットー、ギリシャ人のディミトリウス、奴隷のムハンマドとムハンマドに拾われてきた鸚鵡との日常が描かれる。
 旧市街でマルマラ海を見渡す立地ということは、

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 きっとこんな景色が見渡せたはず。

 自分が泊まったホテルが旧市街で、村田が通っていた考古学博物館(ただし開館準備中)にも近かったので、描かれている情景がありありと頭に浮かぶのであった。きっともっと静かでしんとしていたのだろうけれど。
 途中オットーが発掘しているエーゲ海近くの遺跡でローマングラスを掘り出すというエピソードがあるのだが、挿絵が思いっきり

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 エフェスのこの門だった。門の上にいるのはメドゥーサ。

 ということは、村田が行ったのはエフェスだったんだろうか。文庫も出ているのだが、ハードカバーには挿絵がたくさんあって、雰囲気がよい。表紙には隠れたキーパーソンである行商人のアフメット老人がいる。
 お話の前半は『家守綺譚』のような雰囲気で、いろいろ不思議なことが起こったり、ひょんなことから村田のもとにやってきた「日本のキツネの神」(つまりお稲荷さん)が、アナトリアの牡牛の神や、エジプトのアヌビス神や、古い時代のサラマンドラと懇意になったり(名犬ゴローのようなお稲荷さんである)、ゆるゆると話が進んでいくのだが、時代は第一次大戦・トルコ革命の前夜で、いろいろなことが起こり、最後まで読むと泣いてしまうのであった。読み返すと伏線が周到に引いてあるのがわかる。これは「国」を巡る硬派のファンタジーなのである。ああ、鸚鵡…。

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