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有川浩の自衛隊もの

 震災から1年経った。
 まだ何も終わっておらず、できることはしていかなければならないと思う。しかし、今回記事にしたいのは、そういう話ではなくて、自衛隊の話である。
 今回の震災での自衛隊の活躍はすばらしかった。もともと、消防とか警察とか自衛隊とか、命を張ってお仕事をしている皆さんに無関心ではいられないのであるが、活動を見たり聞いたりするにつけ、泣けた。

 自衛隊好きに拍車をかけたのが、コレである。

  

  

 発行順は「塩の街」→「空の中」→「海の底」で、「クジラの彼」は短編集。「塩」には番外編が収録されているが、「空」と「海」の番外編は「クジラ」に入っているので、「クジラ」は後から読んだ方がいいと思う。
 「塩」は、空から謎の結晶が落ちてきて人々がどんどん塩に変わっていく話、「空」は、空の上に謎の巨大生命体が現れる話、「海」は深海生物(巨大ザリガニ)が横須賀(メインは停泊中の潜水艦)を襲う話である。それに立ち向かっていく人々の姿が、しごくまっとうに描かれる。
 有川さんは確か「塩」がデビュー作ではなかったかとは思うのだが、「塩」が正統パニックもの(でもって文明滅亡もの)、「空」がファーストコンタクトもの、「海」が怪獣ものだと思う。「海」は平成ガメラ2のよう。「空」で空中巨大生命体が最初に自分の呼称として希望した名前とその理由が大変によろしい。
 お話はしごくまっとうで、プロが書いた面白いお話を心から堪能できるし、「塩」では陸上自衛隊が、「空」では航空自衛隊が、「海」では海上自衛隊が活躍する。「海」では警察のおっさんの活躍(というか苦悩と決断)が味わえて一段とお得である。
 「お仕事もの」としても最高で、仕事に疲れたときに読むと励まされるので、いつも近くにおいてある。
 もう一つの醍醐味は人間関係で、有川さんは「クジラ」単行本のあとがきで「いい年した大人がベタ甘ラブコメ好きで何が悪い!」と書かれていて、「クジラ」は思いっきりベタ甘ですが(ちなみに「自衛隊で恋愛物をやります。ベタ甘です」と申し上げたところ、自衛隊のみなさんが相好を崩して「それはいいね!」とおっしゃってくださった、というエピソードがとても好きだ)、「塩」も「空」も「海」も恋愛成分が含まれている。
 出てくるタイプは似ていて、「秋庭(塩)」-「光稀(空)」-「夏木(海)」の不器用ぶっきらぼうラインと、「入江(塩)」-「高巳(空)」-「冬原(海)」の怜悧シニカルラインにくっきり分かれる。「空」の光稀ちゃん(戦闘機乗り:女性)と高巳くん(飛行機メーカー勤務:男性)は変則的な組み合わせだけど。
 「海」の夏木が(彼らは小学生から高校生までの子供らと潜水艦に籠城せざるをえなくなっているのだが)その子供ら(冬原も含む)を名付けた親心についてつらつら考えているくだりで「なんていい奴なんだ、夏木!」と思った。不器用ぶっきらぼうラインは皆いいヤツなのね。一方、怜悧シニカルラインは悪い奴ではないのだが、おおむねちょっと人が悪い。しかししかし、実は、こっちのラインがすっげえ好みなのであった。わかりやすいのは不器用ラインなのだが、好みなものはいたしかたない。
 「クジラ」のタイトル作品で冬原くんが「顔のいいのはこれかと一目でわかるほどの優男」と紹介され、主人公聡子ちゃんの「すごい好みの顔」というところでわからなくなるんだけどね。こちらの好みは「曲者のおっさん」なので「優男」が好みの顔というのは想像の埒外だ。

 ともあれ、要点は何かというと、有川浩の自衛隊ものは、まっとうな「仕事もの」で、プロのお話作りが堪能できて大変に面白く、しかも(個人的には)好みのタイプが出てきて、自衛隊が活躍していいぞ、ということが言いたいのであった。
 これで自衛隊の好感度がぐっと上がったもんなあ。
 
 余談だが、自衛隊で好きな装備は、

 「野外炊具1号」。
 名前と質実剛健さがすばらしい。
 「野外炊具2号」もあるようです(動画はこちらに)。

 ついでに書くと、

 本物の大砲を使ったチャイコフスキーの「序曲1812年」(「大砲を使う」とスコアに書いてある)は一度ぜひ生で聞いてみたいのだった。

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