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「コーマン帝国」

 いまいち体調不良なので、おうちで録画消化。
 WOWOWでロジャー・コーマン特集があったのをまとめて録画しておいたのを見て、「コーマン帝国」で感動して泣いた。
 もともと、くだらない映画、それも確信犯的にやっているやつが大好きで、たとえば「死霊の盆踊り」、映画館で「わかった、もうわかった」と言いながら大爆笑したものだが、なんで自分がくだらない映画が好きで苦手なものが苦手なのかよくわかったのだった。
 すみません、今日も心の狭さが全開です。

 ロジャー・コーマンは、低予算・短期間で大量の映画を作り続け黒字を出し続けた。『私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか―ロジャー・コーマン自伝』という本もあるのだが、絶版…。古本屋で探そう。
 「コーマン帝国」の内容は、映画の紹介、本人へのインタビュー、関わった人々へのインタビュー。関わった人々は、ジャック・ニコルソン、ロン・ハワード、マーティン・スコセッシ、ゲイル・アン・ハード、ジョー・ダンテ、ビーター・フォンダ、ウィリアム・シャトナーなどなど錚々たるメンバーです。実はコーマンは人材を育てたことでもつとに有名なのであった。
 公式サイトはこちら
 予告編。

 どこで泣いたかというと、最後にアカデミー賞の特別功労賞をもらったところ。ロン・ハワードとかタランティーノが本当に嬉しそうで。その後出てきたジャック・ニコルソンも「ごめん…」と言いながら泣いている。泣いているんですよ、あのジャック・ニコルソンが!
 ロジャー・コーマンは、本当にまともな人である。「B級映画の帝王」というと世間的に軽んじられるイメージがあるけど、というか、そう思ってしまう自分自身を反省しなければならないのだが、映画制作のプロとして稼げる映画をきっちり作り、若者に仕事をまかせて人を育て、一方、自宅を抵当に入れて南部の黒人差別に反対する「侵入」という映画(ウィリアム・カーク船長・シャトナーの初主演作)を作るという気骨がある。「B級映画」と言われているけど誇りをもって作っているし。
 で、映画を改めて見ると、「白昼の幻想」とか「ロックンロール・ハイスクール」とか「デスレース2000年」とか面白いじゃないか。
 プロだ、仕事人だ。そういう人に私はなりたい。
 「コーマン帝国」で印象深かったのは、「ジョーズ」「スター・ウォーズ」が出てきたときに「これで終わったと思った。自分たちと同じことを比較にならない資金でされたらかなわない」と話していたこと。「デスレース2000年」は「スター・ウォーズ」エピソード1のポッドレース(子供のアナキンが活躍するやつ)に似てるのよ。むしろエピソード1より面白い。
 うまく言葉にできないのだが、B級映画ってこういうことかと思った。自分はそういう映画が好きだ。
 一方で苦手なのが、自意識が反映されちゃっていて自分と作品の区別がついていない、自己顕示欲がちらちらしているような映画。でも、たぶん自己顕示しているという自覚はなくて、ほめてほしいと思っているような。お金取っているんだから、自分のすごさじゃなくて作品を見せてというような。
 ちょっと前にtoggeterで「質疑応答なのに自分語りを始める人 あるあると有効な対策」というまとめがあって、あるある!と膝を打ってしまったのだが、それと共通するものを感じた。ほら、いるじゃありませんか、映画祭のティーチインで質問時間を独占して自分の意見を開陳しちゃうような人。きっとすごいって言ってほしいんだよなあ、でも今はそういう時間じゃないし、かえって頭悪そうに見えるわよあなた、という感じの。講演会の質疑応答とかブログのコメント欄なども例としてあがっていたけど、音楽をやっている人にも「音楽ではなく音楽をやっている自分が好き」という感じの人がいる。映画が好きな自分が好き、という人もいるような気がする。
 同じようなことを実は政治にも感じていて、たとえば、今話題の大阪市長とか元東京都知事とか元文部科学大臣などですが、何がこんなに嫌なんだろうとつらつら考えているうちに、そうか、自分の権勢欲とか支配欲とかルサンチマンとかそういったものを、おそらく無自覚に政治に持ち込んでいるのが嫌なんだと思い至った。欲は政治や仕事に持ち込むべきではないし、みだりな自己顕示はやめていただきたい。頭はきちんと使っていただきたい。

 心の広い方は、きっとそういうのに寛容なのだろうなあと思うのだが、自分の心の地雷原がどこにあるのかわかって、ちょっとすっきり。読んでくださった方、付き合わせてすみません。
 そのような部分が自分の中にあるから嫌だと思うというのはその通りなので、そうならないよう自戒したいと思います。

 いやしかし、ロジャー・コーマンは偉いぞ。
 自分がインド映画が好きなのにも、同じような理由があると思う。香港映画もそうなのだが「ほめてほしい」とは無縁の闇雲さが好きだ。「ほめてほしい」というのが心底苦手なのである。

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コメント

体調不良とのこと、だいじょうぶですか?
季節の変わり目だから、気をつけてね。

質疑応答の件、います、います!。
おもわず、タイトルを「ゴーマン帝国」に変えたくなっちゃった。

投稿: koalaboke | 2013.05.25 21:42

私も体調いまいちです。すっきりしなくてイヤですね。お互い、気を付けましょう。

『コーマン帝国』は、映画館(映画祭だったかな?)でみましたが、「同じことをビッグな予算で」のところ、やはり印象に残りました。
たしかにそうだよね・・みんな予算の大きさに騙されるんだな、と思いました。

香港映画の魅力は、「暗くても明るい」ところなんですよねえ。それはやっぱり闇雲パワーかも。
いろいろうなずきながら読みました。

映画祭質問の件は、まだ慣れないころ、まず感想をいってから質問しなくちゃいけないものなの?と戸惑ったものです。

投稿: ゆずきり | 2013.05.26 11:00

koalabokeさん
ごぶさたしています、お元気ですか?こちらはやっと暖かくなったのですが、体温調整がうまくいかず、かえって目が回る今日この頃です(今も回っている)。
仕事でも遭遇したりするので、あっさりさばきすぎて反省したりする今日この頃。

ゆずきりさん
ルーカスやスピルバーグは予算が使えて嬉しくてしょうがないという気持ちが溢れているし面白いものを作っているからいいのですが、予算が少ないからチープ・B級というのは違うよなと思います。
香港とインドの映画は暗くても悲惨でも突き抜けているところが好きです。ショウブラとか、よく考えるとすごい話なんだけど。インド映画もそれに似た(時に超えた)突き抜け感がある。
質問の前置きは背景を明らかにする意味もあるので難しいのですが、やりすぎだろうという人が多いというか、質問で手をあげるタイプの人は臆面がない人が多いんでしょうねえ。

投稿: きたきつね | 2013.05.26 11:22

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