『あまちゃん』終わる
『あまちゃん』が終わってしまった。
昨日から『あまちゃん』のことを考えているので、書いてしまうことにする。
予告編も放送時も録画でも泣けたシーン。
トンネルに向かって叫んでいた2人が笑いながらトンネルを駆け抜けていく。この物語は、明日も明後日も続いていく話であり、来年には向こうに行ける話であり、自分は偽らなくてもよいという話であり、成長しなければならないと思っていなくても人は成長するし、何年経っても、どこにいても、人は変われるし復興していけるという話である。
しかし、制作者(クドカンかディレクターだったと思う)もストーブさんも言っていたように、主人公のアキちゃんはほとんど変わらない(成長はしていると思う)。周囲の人々が変わる。だから、実質的な主人公は周囲の人々だ。
これは、オオシカケンイチさんが描いてくださったものをお借りした。
本当に、捨て駒がひとっつもない。みんなに物語がある。キャスティングもすばらしい。
個人的には、本来の主人公であるアキちゃんに加えて、ユイちゃんと春子さんと鈴鹿さんの物語だった。都会から地元に来たアキちゃん、地元で生き続けていくユイちゃん、地元から都会に行った春子さん、都会で生き続けていく鈴鹿さん。地元と都会の関係がみんな違う。
その中でも、一番感情移入してしまうのは、こちらでさんざん書いたように鈴鹿さんなのだが、東京とアイドルに憧れて、でも行けなくてなれなくて、いろいろあってぐれて、でも復活して、震災に遭って、最後にめんどくさい本来の自分になって地元で生きていくユイちゃんも、最終週になってとても好きになった。
最終回1つ手前の155話で、1984年で時間の止まった春子さんの部屋で、聖子ちゃんのポスターを貼ったドアをあけて小泉今日子が入ってきて、テクニクスのコマーシャルのようにヘッドホンをしていた薬師丸ひろ子と、渋谷哲平や太川陽介について盛り上がるという、もう朝ドラだか何だかわからないありがたいシーンが展開されたのだが。「ふっきれた?」「あたしも」「それは、よかった」で、すべて終わったのだなあと思って泣けた。
鈴鹿さんが本当は歌えたのかどうかは藪の中だけれども、本当は歌えなくて歌えるようになったとすれば、それはそれでいい話だし、本当は歌えたのだとしたら、それは鈴鹿さんが25年間プロとして生きてきた話なので、もう、どちらでもいいと思う。どちらにしても鈴鹿さんは辛かったわけで、解放されて、本当に本当によかった。
アキちゃんは劇中ではもともと解放されていたように見えるけど、東京では「地味で暗くて(以下略)」だったので、みんな解放されたのであるなあ。
主人公が変わらないことにくわえて、『あまちゃん』主人公の恋愛・結婚の扱いが軽いという点で画期的だった。思い起こすと、ほとんどの朝ドラでは、主人公の恋愛にスポットが当たっていたり、結婚したりしているような気がするが、たしかに種市先輩のエピソードはあるが、物語を進める機能は果たしているものの、それ以上ではない。特に、復興編では、つきあっているのかどうかもわからない描き方だった。周りの人が変わっていく群像劇なので、それでいい。
お座敷列車で続けてアップになっていた三大イケメンについては、水口には、嘘から出た誠(本当はデザイン専攻だったのに「考古学専攻だった」と嘘をついて勉さんに弟子入りした)で考古学を学んでほしい気がする。種市先輩はあのまんま生きていけそうなので、あまり心配していない。アキちゃんは北三陸で早々に結婚してしまいそうな気がするが、相手は誰でもいいと思う。個人的にはストーブさん(成長したよね!)に是非とも幸せになってほしい。
井上ディレクターによると、最終回はなるべく地元のみなさんを映すようにしたとのこと。地元や80年代やいろいろなことにリスペクトが溢れていたのもよかったことのひとつだと思う。同じくNHKの公式ページにある「北三陸観光協会」のサイト(『あまちゃん』は、このような細部までの作り込みもすばらしかった!)のストーブさんが撮った(本当に小池徹平が撮っている)「潮騒のメモリー」の動画がとてもよい。
最終回の日に行われた勉さんこと塩見三省さんとプロデューサーの訓覇さんの対談を書き起こしてくださった方がいらして(こちら)、とてもよかった。アキちゃんの猫背は直せと言われて直らなかった結果なのか、「チーズかける?」は小泉今日子に「すごいのが撮れた」と言わしめたアドリブシーンだったのか、など、興味深い。たしかに、勉さんには最後まで天使でいてほしかった気はする。
あと、復興編(特に披露宴の余興)に花巻さんが、最後のニュースに眉毛こと高瀬アナウンサーが出てくると尚よかった。サダヲちゃんも見たかった。中村勘三郎が存命なら出ていたかも。
覚え書きとして書くのだが、個人的ベストシーン(暫定・やや順不同)は、
1 鈴鹿さん、自分の声で歌う(153話)
2 「それは、よかった」(155話)
3 ユイちゃんの「やるよ!」(たしか145話)
4 勉さんの「チーズ、かける?」までの一連の流れ(第14週)
5 ミズタク怒濤の留守番電話(第16週)
6 花巻さんのフレディ(第64話)
7 兎忠と粂八の共演
週としては、第9週(お座敷列車の週)と第25週(最終週の1週前)が好きだなあと思っていたのだが、思い起こすと、第16週(「おらのママに歴史あり2」)その他、思い出は尽きない。
この半年間、本当によいものを見せてもらった。NHKでこういうものを作るにあたっては、勇気も要ったろうし、上層部の反対もあったのではないかと推察するけれども、おかげで「いい仕事」を目の当たりにできた。スタッフのみなさま、ありがとうございました。
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