『キネマ旬報』インド映画特集
やっと読みました。
これです。
『キネマ旬報』12月上旬号が「どうにもインド映画好きなもので」というタイトルでインド映画特集を組んだのだった。こちらで教えていただいていたのだが、やっと読むことができた。
一番フィーチャーされているのは、周防正行監督と江戸木純さんの対談ではないかと思うのだが、「インド映画100周年」ということで、松岡環さんの「インド映画100年のあゆみ」「インド映画の今の常識がわかるQ&A」なども掲載されている。
2013年は、初めてといっていいほど多くのインド映画が、しかもヒンディー映画中心に日本公開された記念すべき年である。その2013年に『キネマ旬報』でインド映画特集が組まれたのは大きい。
『English Vinglish』(順次全国公開とのこと、万歳!)『神様がくれた娘』の公開のお知らせも載っていて、これからもインド映画の公開が続けばいいと心から願う。
しかしですね、それだけに、今回の特集はちょっと残念なところもある。
まず、なぜ一番フィーチャーされているのが周防正行監督と江戸木純さんなのかということ。おそらく周防監督は『インド待ち』、江戸木純さんは『ムトゥ』の影響だと思うのだが、それってちょっとソースが古すぎないだろうか。10年以上前ですぜ。前に書いたことがあるのだが、周防監督はあまりインド映画好きだとは思えなかったし、江戸木純さんも確かに『ムトゥ』を日本公開させたという功績はあるのだが、今、インド映画の推進力になっているかというと疑問。「どうにもインド映画好き」という面子なのだろうか。
だいたい、対談の中で言われている『3 idiots(きっと、うまくいく)』について「『ムトゥ』以来もっともヒットしたインド映画」というのは正しくないのではないか。1998年から15年の間にタミル映画である『ムトゥ』以上にヒットした映画はあるでしょう、特にヒンディー映画で。江戸木さんは、タミル的な映画がお好きなようで『3 idiots(きっと、うまくいく)』はあまり好きではないとのこと、周防監督も「『3 idiots(きっと、うまくいく)』はインターミッションまでは退屈だった」とのことです。
今のインド映画を語ってもらうのなら、たとえば「これでインディア」のアルカカットさん(帰国されて新しくブログを立ち上げられている)とか、グレゴリ青山さんとか、もっと適切な方はいらっしゃるでしょう。アルカカットさんは、おそらく、この10年のインド映画のレビューに関しては一番だと思うぞ(サイトには本当にお世話になっている)。新ブログの「「きっとうまくいく」の邦題について」など、広く読んでいただきたいと思う。久々に次郎丸章さんの文章も読みたい。
15年経って、いまだに『ムトゥ』を基盤にしてインド映画特集を組んでいる雰囲気もある『キネマ旬報』はちょっと怠慢なんじゃないか、と正直なところ思ったのだった。
…と苦言を呈してしまったのだが、『キネマ旬報』さんにはお願いがある。
『キネマ旬報』でインド映画ときたら、自分にとっては、
2000年に出た『インド映画娯楽玉手箱』なんである。
いまだに本棚の特等席におさまっているのだが、惜しむらくは13年前の本なので新しい情報が入っていない。
ここ13年でインド映画はとてもとても変わった。アルカカットさんがIFFJのオープニングで講演されたように、マルチプレックス(シネコンプレックス)の普及などがインド映画を変えた。「突然踊り出す」というインド映画に対するありがちなコメントに相当する映画も少なくなった。今の少なくとも自分が見ている範囲のヒンディー映画の歌舞音曲シーンの入り方はとても自然になったと思う。ジャンルも多様化したし、面白さも多様化した。
『キネマ旬報』さんには、是非とも『インド映画娯楽玉手箱』の新版を出していただきたい!と心から思うのである。
今を去ること25年前の1988年、香港映画の公開本数はとても少なくて、自分はアニメージュ文庫の『ザ・香港ムービー』(手に入る本はそのぐらいだった)を読みながら『重慶森林(恋する惑星)』が見たくてばたばたしていた(【訂正】いや88年なら『重慶森林』はまだだったので本を勘違いしている可能性大。しかし『ザ・香港ムービー』に掲載されていたほとんどの映画が未公開だったのは確か)。25年後の今、香港映画の公開本数は大幅に増えて、『大追捕(狼たちのノクターン)』『鐵三角』など、公開されたうえwowowで全国のお茶の間に流れ、『寒戦』も公開されることになった。香港映画の主な新作はかなりの確率で日本公開されるようになっているのではないだろうか。
この25年で『キネマ旬報』では香港映画特集ムックを3冊以上出している。そのような関係者の皆さまの継続的なお力があってこそ現在があるのだが、同じように、インド映画も、日本で広く見られるようになってほしいのである。そしてそれは可能だと思うのである。
だって、面白いんだもの。
なので、『キネマ旬報』さんには今後とも是非とも頑張ってほしい!と願ってやまないのであった。
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コメント
気にはなっているのですが、キネ旬、まだ買わずにいます。
原因はやはり周防監督。
この監督の「インド待ち」は読みながら胸の中のもやもやが膨らんでしまって、印象が良くないのです。
きたきつねさんが書かれているように、周防監督、インド映画、そんなにお好きじゃないでしょう?
あたしもアルカカットさんやグレゴリ青山さん、そして、できればインドにいらっしゃいますがポポッポーさんのインド映画案内、読みたかったです。
もう一つ。「インド映画」と称してボリウッドだけ紹介されているのでは?ということ。
その辺は早く本屋さんに行って確認しなければとも思っています。
すっかりサンダルウッド漬けになっているものとしては、さらに奥が深いインド映画の世界をどこまで紹介してくださってるのかというのが気になっています。
投稿: やっほー | 2013.11.29 11:59
インタビューで見た限り周防監督は「インド映画好き」ではないと思います。やはり『インド待ち』が登板の理由でしょうね。『インド待ち』ではアジャイ君やサンジャイ兄貴を高田純次呼ばわりしてましたしねえ…(一生言いそう)。
江戸木さんはヒンディー映画よりテルグ映画がお好きだと言っていたと思います。特集は、全体的に薄味な印象だったので、ヒンディー映画に特化したということでもなかったような。
どうも『キネマ旬報』の制作サイドに「インド映画といえばムトゥ」という前提があるように思いました。
ポポッポーさんが書かれたものも読みたいですよねえ。私的ベストメンバーは松岡環さん・グレゴリ青山さん・次郎丸章さん・アルカカットさん・ポポッポーさんです。
『インド映画娯楽玉手箱』ではテルグ映画・マラヤーヤム映画にも言及されていました。今こそ新版を出してほしい!と本当に心から思います。
投稿: きたきつね | 2013.11.30 13:34