『ハーブ &ドロシー アートの森の小さな巨人』
1年前に公開されたのだが、今ごろ見て心打たれた。札幌でも劇場公開されたのだが、忙しい時期で行けなかったのである。ソフトやテレビでの上映はありがたい。
日本版予告編。
アメリカ公開版の予告編はこんな。
日本とアメリカでは焦点がぜんぜん違いますな。
まあ、たしかに、仕事は何かとは思ったが。
ご夫君のハーブ・ヴォーゲルは元郵便局員、ご夫人のドロシーは図書館司書。収入の範囲内で住んでいる小さなアパートに収容可能なことを条件に収集した結果、ミニマルアートの一大コレクションを築いていたというドキュメンタリー。
何がすばらしいといって、このご夫妻には売ってお金を儲けようという欲も有名になりたいという野心も全くないということである。おそらく、自分たちが情熱を持っているという意識もないと思う。そして、コレクションしているミニマルアートが本当に好きで、選ぶ確固たる基準を持っている。
もともとは、美術が好きでアーティスト志望だったハーブと結婚後にアートに関心を持ったドロシーが、手の届く値段だったという理由でミニマルアートのコレクションを始め、好きなアーティストの思想をたどるという視点のもと、ハーブの猟犬のような嗅覚とドロシーの曇りのない明るさで作品を買い集めた結果、気がついてみると屈指のコレクションが築かれていたのだった。
二人とも本当に「邪気」のない方で、ついに(最低限必要な費用を除き収入はコレクションに費やされていたためコンピューターすら持っていなかった)パソコンを買うべくアップルストアに赴いたご夫妻の姿、てきぱきと店員さんに質問をして「必要な機能以外はいらない」と安い方のMacBookに決めるドロシーと、一方、店の水槽の魚に釘付けになっている(ご夫妻は動物好き)ハーブがツボであった。
収集を始めた当時のアーティストは作品がまったく売れず、ハーブとドロシーが現れて初めて現金収入が得られた人も多い。2人は有名とか売れるとか全く考えずに好きなものを買っていたのだが、マスコミに取り上げられたこともあって有名になってしまい、クリスト夫妻は電話をもらって「これでやっと家賃が払える!」と喜んだらしい。しかし、すでに名前が出始めていたために価格が折り合わなかったので一旦は売れず、しかし、作品制作で家を空ける間の猫の世話と引き替えにクリスト夫妻は作品を提供したのであった。これはハーブとドロシーのコレクションに加わりたいということだったんだろうなあ。インタビューされているアーティストの皆さんは、みんなご夫妻にとても好意的である。
あちらこちらの美術館からオファーはあったものの首を縦に振らなかったご夫妻は、ついに、ナショナルギャラリーに作品を譲渡することを決意。それは、「転売しない」という規約があったことと、祖国に貢献したいという思いがあったから。
ナショナルギャラリーとしても現代アートの一大コレクションがまるごと手に入るのでいい話だったわけだが、査定のためにコレクションをワシントンに送ろうとしたところ、家一軒引っ越しできるトラック1台で済むと思ったら5台を要してしまい、「あの小さいアパートにどうやって入っていたんですか!」という状態だったらしい。アパートは「楊枝1本入らない」状態で、見に来たキュレーターが「火事になったら…魚の水槽から水があふれたら…」と青ざめるような様子だったという。さらに、ナショナルギャラリーが引き取るか確約していなかったので、もし送り返すことになったら…と、キュレーターは生きた心地がしなかったらしい。
コレクションが充実していて無事にナショナルギャラリーに寄贈はできたものの、点数が美術館に収容可能な点数を遙かに超えていたため(まったくアパートにどうやって入っていたのだか)、全米の美術館50館に50点ずつ寄贈されることになった。その顛末を描いた続編が『ハーブアンドドロシー ふたりからの贈り物』のタイトルで、この春公開されるのであった。続編の公式サイトはこちら。
ちなみに、監督・プロデューサーは佐々木芽生さんという札幌出身の方。1時間余のインタビュー動画があった(こちら)。まだ見ていないのだが、この作品が日本の方の手によって生み出されたことは誇りである。
続編の日本版予告編。
予告編を見て、あれもしかして、と思ったら、インタビューでネタが割られていた。これは劇場に行くつもりなのだが、泣くかもしれん。
本編の公式サイトはこちら。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント