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愛子さんの手工茶

 これは何かというと「手工茶」です。
 「心の隊員」副隊長のふいみんさんが作った。
 7gのお茶なのだが、とてもかさばっている。

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 「手工茶」とは何か。
 正しく作った伝統鉄観音は、すごくざっくり書くと、適切な茶葉だけを正しく摘み(現在は機械でがーっと摘んでしまうことがほとんどすべて)、太陽と外気に晒して発酵させ、葉を乾かし、さらに屋内で発酵させ、一番いいタイミング(これを見極めるために愛子さんは茶葉につきっきりで茶葉の香りの声を聞いている。徹夜で)で炒茶し、さらに「包揉」する。
 包揉とは、こちらの記事の写真を見ていただけるとわかるのだが、製茶の終盤で、布(愛子さんとおとんは純綿を使うけど中国では化学繊維とのこと)でくるんで珠にして、万力のような機械でぐるぐる揉んで茶葉を締めること。
 実は、機械での包揉が一般化したのは、電気が安定して使えるようになった2000年以降のことなんだそうだ。それ以前はどうしていたかというと「手工」だった。
 手工というのは、機械がぐるぐる揉むのを人力で行うことです。細いベンチのような椅子の上で手と膝を使って揉む。たぶん、この記事の写真がわかりやすいと思う。
 この写真は、愛子さんが祥華のおとんに手工を教わっているところ。2007年10月のことだった。この年は研究茶だったが、以後手工茶は毎年作られている。
 おそらく、これをやっているところは残っていないと思う。
 「手工茶」は、膝にものすごく負担がかかるのだそうだ。
 今回の品茶会で聞いて驚いたのだが、実は、今の鉄観音では機械ですら包揉を行っていない。たまに機械で包揉したものが「手工茶」と呼ばれるという。
 これはどういうことかというと、今の中国では、経済成長にともなってお茶の消費量が急増しており、とにかく、原価の安いお茶を手っとり早く作ることが必要とされ、手間とコストのかかる伝統的なお茶は求められていないということなのだった。手を抜いて安く作ったお茶でも綺麗な箱に入れて「鉄観音」の名前がつけば高く売れる。伝統的なお茶を知っていて伝統茶がなくなることに心を痛める作り手も、そうする。そうしないと生活が成り立たないから。
 むかし記事として書いたのだが、お茶の味がちゃんとわかる(「わかろうとする」かもしれない)中国人はそれほど多くない。綺麗な箱に入ってブランド名がつけば、それをいいお茶だと思ってしまう。
 でも、全然違うんだよね。

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 この写真の左のお茶は機械で包揉したもので、右はまったく同じ茶葉を手揉したもの。違いがあるのがわかるだろうか。右の方が細かい葉が入っていないでしょう。これは、手工のほうが柔らかく揉まれるために茶葉が破壊されないため。
 味も違う。
 左のお茶は、すごく美味しいお茶なのだが、手工と比べるといろいろなものが無理矢理ぎゅーっと絞り出されている感じ。手工はすごく優しい味で余計なものが出ていない。飲んだ瞬間は薄味に感じるのだが、いつまでも飲んでいたい味。
 おそらく、こんなお茶はもうどこにも残っていない。実は祥華のおとんは中国で唯一の現役「非物質文化遺産伝承人:伝統安渓鉄観音製茶技芸」というすごい人なのだが、おとんのところですら愛子さんが復活させなければ手工はなくなったきりだった。ブログを読めばわかるのだが、愛子さんは途轍もなく研究を重ねているので、お茶のレベルが年々上がっているのである。
 これはなくしてはいけない味である。
 たしかに、けっして安くはない。いわゆる日常レベルで出される「お茶」の値段ではない。しかし、愛子さんのお茶は、いってみれば、上等の日本酒かワインみたいなものなのである。それだけの価値がある。おとんと愛子さんの伝統鉄観音がどんなふうに作られているかは、たとえば、上のリンク記事の一つ上の階層「07秋天♪鉄観音」をご覧ください。
 自分にできることはお茶を飲むことだけなので、だったら、せめてお茶を飲むことで貢献していきたいし、何より、このお茶を可能な限り飲み続けたいと思う。仕事が大変でも「帰ったらあのお茶を飲もう♪」と思えるのは幸せである。お酒が好きな人がお酒が楽しみなように。
 「心の隊員」まだまだ募集中です。詳しくはこちら(手工の写真がここにも!)を。

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コメント

こんにちは

品茶会ではお世話になりました。「愛子さんの手工茶」の記事、本当にわかりやすくてきたきつねさんの思いもしっかり伝わってきます。

こうしてブログを書き続けていらっしゃることも、すごいなあと感心しました。2008年頃からの中国茶ブーム(ブームと書くことはとてもさびしいですね)で、自分も含め茶葉、茶器を求めました。気がつけば今も中国茶についてのブログを更新している方はほとんどみかけなくなりました。
昔の記事を懐かしく読み返させていただきました。

久しぶりに今はほとんど使わなくなった茶壷たちを手に取り、やっぱり使ってあげてゆったりとした時間を過ごしたいとも思いました。
でも愛子さんの茶葉は蓋碗がいいんですけどね(笑)

投稿: 蝦餃(はーがう) | 2014.03.14 13:16

蝦餃さん
コメントありがとうございます!ようこそいらっしゃいませ。
先日はお目にかかれて嬉しゅうございました。
中国茶ブログ、一時は多かったのですが、たしかに最近は更新が少なくなりましたね。書籍も少なくなった気がします。このブログも昔に比べてお茶の記事の比率は小さくなりました。
バブルがはじけたのか落ち着いて表に出てこなくなったのかはわからないのですが、表に出てこなくても飲み続けている方がいらっしゃって、愛子さんのお茶を飲んでくださる方が増えればと願っています。
たしかに、土の茶壺の出番は減りましたねえ…

投稿: きたきつね | 2014.03.15 23:39

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