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『The Lunchbox(めぐり逢わせのお弁当)』を札幌で観た

 「めぐり逢わせのお弁当 ネタバレ」で検索がくるのだが、このブログでは原則としてネタバレはしませんので、あらかじめお断りしておきます。

 『The Lunchbox(めぐり逢わせのお弁当)』は本日から札幌公開。
 初日初回に走って観に行きました。満席で立ち見が出てた。客層は、どちらかというと年配の方が多かったけど学生さんもあり老若男女いろいろだった印象。
 20分ぐらい前に行って、前から3番目ぐらいの真ん中あたりで観られたのでよかったのだが、もう、うちのイルファン・カーンのインド映画の主演作がついに…と思うと感無量。冒頭から目頭が熱くなってしまう。
 「うちのイルファン」については、さんざん書いてきたけど、イルファン・カーンは、かれこれ5年以上、インド映画における最も好きな俳優なんである。パンフレットにも書いてあるけど、結構検索が来るので、元記事からコピペ改変。

 イルファン・カーンはインドの名優です。英米圏の映画に最も出ているインド俳優と言っていいと思います。最も有名なのは、「ライフ・オブ・パイ」の大人になったパイと「スラムドッグ・ミリオネア」の強面刑事(しかしエンドタイトルではいい人そうに描いてある)。「その名にちなんで」の主人公の父親役もとってもいい役です(ちなみに妻役は『Life of Pie』で主人公の母役だったタッブー。2013年3月16日公開「Om Shanti Om」の「Dewangee Dewangee」の赤いサリーの美女です)。「マイティ・ハート」の頼りがいありまくりのパキスタンの軍人役ははまり役(刑事や軍人の役がとっても多い)。「ダージリン急行」の子供をなくしたお父ちゃん役は台詞がひとつもないけどいい役だった。「New York, I love you(ニューヨーク、アイラブユー)」ではナタリー・ポートマンに惚れられる(当然)役。「アメージング・スパイダーマン」の悪役もやってます(詳しくはこちらに)。
 インド映画にもたーくさん出ていますが、個人的に一番好きなのは「Life in a Metro」。本家の「フォーン・ブース」よりずっといい「Knock Out」もイルファンの演技力があってこそ(共演のサンジャイ・ダット兄貴もいいけどね)。「ユージュアル・サスペクツ」翻案の「Chocolate」もいいです。2012年の主演作『Paan Singh Tomar』では、インドで主演男優賞もいくつか獲得。
 イルファンのオフィシャルサイトはこちら

 いまだかつて、これほどイルファンの出演比率が高い映画が日本のスクリーンで公開されたことがあろうか(いやない:反語)と思うと、ムンバイの日常がつぶさにスクリーンに現れると、もう胸がいっぱいでありました。
 映画については、DVDで観たとき、香港で観たとき、日本公開が決定したとき、「あさイチ」で紹介されたとき、と散々書いてきたのだが、やはり、スクリーンで、日本語字幕で、地元札幌で、満員の劇場で観ると、感慨もひとしお。
 
 見れば見るほど、これは「孤独」と「人々の関わり」についての映画だと思う。「あさイチ」の記事にも書いたように、日本での広報では「恋愛」がクローズアップされすぎている感があるのだが、ヒロインであるイラとイルファン演じるサージャンだけではなく、ナワーズーッディン・シディッキー演じる天涯孤独なシェイク(字幕は「シャイク」だけど「シェイク」に聞こえる)も、上の階のおばさんも、イラのお母さんもみんな孤独だ。
 主婦として一日家にいて料理洗濯子供の世話に明け暮れているのに夫にないがしろにされているイラ、15年間昏睡状態の夫を世話し続ける上の階のおばさん、肺がんの夫を看取り結婚して数年で夫が嫌になったと告白するイラのお母さん、天涯孤独でいろいろな職を渡り歩いて保険会社の職をやっと得たシェイク、妻を亡くし、人とあまり関わることなく35年間ひとつのミスもおかさず勤め続けた保険会社をまもなく退職するサージャン。お弁当が取り違えられたことがきっかけでイラはサージャンと関わるようになり、サージャンは、おばさんの入れ知恵で唐辛子がどっさり入った料理がきっかけでイラに自分のことを語るようになり、バナナで口直しをしたことでバナナが昼食のシェイクとお弁当を分けあうようになり、たぶんイラと関わるようになったことで外の人間に関心が向くようになる。母娘がビルから飛び降りたことで、サージャンはイラを心配し、イラは我が身を振り返り、おばさんや母の人生を考えサージャンに手紙で語ることで考え方が変わっていく。
 「思い出は人に話さないと忘れてしまう」ということは、思っていることは一人で抱え込むのではなく他の人と分かち合うことが必要ということで、おばさんもお母さんもイラと話すことで救われているところがきっとある。「間違った電車にのっても正しい行き先に着く」ということも、きっとあって。
 イラもサージャンもシェイクも幸せであってほしいと思う。

 イルファンもナワーズも、この映画では全然強面ではないのだが、よく見ると強面(そこがいいんですけど)。前にも紹介しているのだが、この2人、2003年に『Bypass』という短編映画で共演している(こちらで見られる)。セリフ一切なしで「インドの田舎は怖い…」というハードな作品で、いやあ、2人とも上手いわあ。
 はじめは仏頂面だったのが、となりの席のおっさん(ひそかにツボ)にいぶかしがられるほど、いそいそとお弁当を待つようになり、手紙を読みながら天井のファンを見上げ、じたばたしながら禁煙しようとするイルファンがかわいくて悶絶しそうだった。あと、隣家の女の子(ほんとに家族で出演しているらしい)が手を振ってくれるところで毎回泣いてしまう。
 イルファンが年を気にするくだりがあるのだが(まあイラは30そこそこだろうから20歳ぐらい違うわけだけど)、見るたびに毎回「いいじゃん、イルファンなら!」と心の中で叫ばずにはいられません。ちなみに、イルファンは1964年生まれ(ウィキペディアの1967年というのは間違いだと思う)。

 この映画は新聞や雑誌にたくさん評が載って、いくつかに「歌も踊りもなくてインド映画らしくない」というような記述があったのだが、歌は入っている。インド映画の一般的なイメージは「踊りが入る」ことだと思うのだが、実は、踊りがないインド映画はけっこうあって、一方、どんな映画であっても歌は必ず入るので、「歌」こそがインド映画に欠かせないものだと思う。

 挿入歌のひとつはこれ。電車の中で子供が歌っているやつ。
 アーミル主演の『Raja Hindustani』から。

 イラがサージャンの名前を知って上の階のおばさんにリクエストするのはこれ。マードゥリーとサンジャイ兄貴とサルマン主演の『Saajan』から。

 この映画を見ると、インド料理を食べたくなること請け合いなのだが、パンフレットに「ダル」「インゲンのサブジ」その他のレシピも載っていたので、今夜はカレー三昧の予定。
 シェイクよ、電車の中で野菜を刻むにあたりビニールも敷かずに書類の上で切っていた(「今度からビニールを敷きます」じゃないだろう)のもなんだが、鞄をしめるときに野菜を袋に入れたりしていなかったのではないか?そりゃー上司も怒るだろう。
 ちなみに、書類が野菜の匂い、いぶかしげな隣のおっさん、上の階からやってくる山盛り唐辛子など、そこここで笑いが起きていました。老若男女のお客様に楽しんでいただけたようでよかったよかった。

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