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2014年11月

羽仁未央さんの『香港は路の上』(1988)

 著者の羽仁未央さんが11月18日に肝不全で亡くなったことをツイッターで教えていただいた。享年50歳とのこと。最近お名前を見ていないので、何度か消息を検索していたところだった。関連記事はこれがいいと思う。

 この本は、数ある香港本の中でも最も好きな1冊である。 ほんとうに、今まで何度読んだかわからない(昨日も開いたばかり)。

 表紙。

 アマゾンでは10倍近くの値段がついていてびっくり。

 この本が好きなのは、ありがちな香港案内ではなく「香港への愛」に満ちているから。第2章のタイトルが「街に恋して」である。『ドラゴン特攻隊』と『悪漢探偵』で下地ができて、香港に行く前に写真を見て「雲の多い香港にはよくあることだけど、手前が曇っててむこうが晴れていた(中略)それを見たとき、わたしはああこれが香港晴れってもんだわ、こういう天気のところに住もう、と、なんとなく考えた(23ページ)」とのこと。香港に行ってそんな景色を見るたびに必ずこの文章を思い出して「ああ、香港晴れだ」と今でも思う。
 それはきっとこんな景色。

 発行は1988年。返還の9年前。
 表紙にもなっているこの写真がとても好き。おっちゃんたちの顔が。

 後ろに看板が映っているのでわかるのだが、ここは銅鑼湾の北側にある清風街である。別の章に銅鑼湾の「トラムの車庫の脇」の羅素街の屋台で腸粉(『英雄本色』で周潤發が食べているアレ)を売っている親娘の話があるのだが、「銅鑼湾のトラムの車庫」はすなわち現在の時代廣場で、この本で描かれているのは、返還前の大規模な再開発がされる前の懐かしい懐かしい香港なのだった。
 ダイヤモンド・ヒルにはまだスラム街があったし(そこを蓮實重彦ご夫妻が歩くというエピソードがある)、バスターミナルには茶水のおっちゃんがいて、彩虹にはジャングルみたいな木立があって、九龍城砦もまだあって、空港はまだ啓徳で、中環のスターフェリーのターミナルは昔のあの姿のまま。

 写真と文章で描き出される香港は何もかもが懐かしく慕わしい。

 本が出てから26年後の今、香港は大変なことになっていて、でも、まだ、香港の人々は希望をもって元気に生きている。最近の活動はとてもアーティスティックで、香港はアートな街なのであった。羽仁さんや私たちの愛している香港は芯は変わっていないし、これからも変わらないと心から信じている。

 羽仁未央さん、香港のことをいろいろ教えてくださってありがとうございました。香港の映画で「猫師」などもやっていらっしゃいましたよね。
 そちらでも香港を楽しんでいてください。心からご冥福をお祈りします。

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『救火英雄(ファイヤー・レスキュー)』をディノスシネマズ札幌で観る

 ディノスシネマズ札幌さんは、札幌における香港映画の牙城のような映画館であって、以前にも「春のドニー祭り」を開催してくれたり、今回も、1週間ずつではあったけれども『掃毒』もこれも公開してくださったので、札幌市民は日本語字幕つきでスクリーンで見ることが出来たのであった。いつもありがとうございます。感謝の意を込めてタイトルに入れさせていただきました。

 さて、またもや長らくご無沙汰してしまったのだが、実は、今週、人生初の「診断書が出て自宅療養」ということになっているのでした。それほど深刻ではないはずで、感染症ではなく通院などもあって出かけているので、むりやり行った(帰るとぐったりするけど)。行きたかったんだよ、これ。

 日本版予告編。

 詳しくはこちらに書いたのだが、香港公開時に一度観ている。これは絶対映画館でみたほうがいい。香港火事映画の金字塔『十萬火急(ファイヤーライン)』(これはCGぬきで役者が身体を張っているところがまたすごい)もそうだけど。臨場感というか密閉感が全く違う。
 感想は当時とあまり変わらないのだが、日本語字幕があるのはありがたく、ニコことニコラス・ツェとショーン・ユーとアンディ・オンは同期で、冒頭の屯門の火事では連帯責任と言いつつショーンが罪をかぶってしまったのかなど、筋がよりよくわかった。
 当時『香港街道地方指南』で調べたのだが、舞台の龍鼓灘は新界の西端で発電所が2つあり、応援が来るのがきわめて難しい立地なんだよね。最後は香港は復旧していたんだけど、あそこがなくなったら香港の電力事情は大丈夫なんだろうか。地下鉄が全部止まって街灯が消えてバスが走れなくなったら尖沙咀あたりに集まっている皆さんはどうなってしまったんだろう。クリスマス時期は香港にいることが多いので、佐敦あたりに泊まっていればいいけど九龍城あたりでも歩いて帰るのは大変だよなあと他人事ではない。
 改めて見直してみると、消防士は本当に大変な仕事で、十萬火急(ファイヤーライン)』でも引用したりえさんの記事を思い出して涙する。やっぱり霊柩車は消防署を通って任務終了のベルを聞かせたんだろうか。最後の「消防士に捧ぐ」で密かに拍手した。
 ストーリーはわかっているので、ちょろちょろしちゃいかんよ子供!とか、そこでスイッチを入れてはいけませんってば所長!とか、そこで火を焚いちゃいけませんってば婆ちゃん!など、気がもめる。
 確認したのだが、お酢工場で家族を亡くしてお祀りするために火を焚いちゃって大火事の原因を作ったのは、やっぱり邵音音だった!アンドリュー・ラウ監督はどこにいるのかわからなかったのだが、帰ってから公式サイトを見たら、消防庁の長官だったのか。
 それにしても、消防士の布陣は何度見ても鉄壁で、胡軍!ヤムヤム!など出てくるたびに手を振る始末。本部長がリウ・カイチーだったのが個人的にはかなりツボだった。ヤムヤムも素敵だが、胡軍がやっぱり頼りがいがあってよい。ああいうキャリアは香港ではたぶん成立しないと思うんだけど。
 ニコはねー、やっぱり、ああ辛かったんだろうなあ…と、相変わらずヤムヤムとアンディ・オンと煙草を吸うシーンで涙してしまう。
 ああ、ニコよ、本当にいい俳優になったねえ…としみじみしてしまい、ニコ祭りかデレク・クォク祭りを開催したいのだが、体調がよくないとそんなに映画は見られないようで(けっこう体力使うんだなあ)しかも見られる映画はけっこう選ぶ必要があり、ああ時間はあるのにともどかしい療養中。

 もうひとつ、これはご時世としか言いようがないのだが、ジャッキーが出てくる「ポリスストーリーかよ」のくだりで、本当に複雑な気持ちになった。今回の香港の事態に際してジャッキーはいろいろと失言をやらかしており、また、警察と香港市民の関係も従来のようではなくなっていて(差人こと警官個人は悪い人ではないと思うけど、かつてのような信頼関係があるかというとなあ…)、1年足らずの間に香港が大きく変わってしまったことが胸に迫るのだった。

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『Barfi ! (バルフィ!人生に唄えば)』を札幌で観る

 香港の雨傘革命が1か月を経過したことなど、いろいろ書きたいことはあるのだが、久々にインド映画の話を。
 『Barfi ! (バルフィ!人生に唄えば)』が札幌で公開され、最終日(最終回)に何とか走って行ったのであった。けっこうお客様が入っていてよかったよかった。隣の方はごうごう泣いてらした。

 日本版予告編。
 

 この予告編はちょっと違うような気もする。 
 主人公の純粋な心が周囲の人を…というより、ジルミルの純粋な心が…という気がするのだが。バルフィは捨てられるのを恐れていて友人を試すというくだりもあるし。
 心が純粋な主人公をランビールが好演というのなら『Ajab Prem Ki Ghazab Kahani』の方がいいと思う。またカトリーナが可愛いんだ。
 実は、これ、以前DVDで見て、あまり印象がよくなかったのである。マイオールタイムベストである『Life in the Metro』のアヌラグ・バス監督なんだけど。
 今回日本語字幕で見て、印象は変わったのだが、印象がよくなかった理由もわかった。
 ひとつは、前半のランビール・カプールがなんだかジーン・ケリーみたいなのである。ジーン・ケリーは苦手なのだ。好きなのはフレッド・アステアであって、ジーン・ケリーは上手いところを見せたがっている感がある。「ランビール、あんたが上手いのはわかってる、わかってるから!」という感じ。
 もうひとつは、時間が行ったり来たりして、ストーリーが込み入っているので、かなり字幕に頼らなければならなかったこと。おそらく、DVDで見たときは、前半のジーン・ケリーぶりと見たことがあるネタが続出するので(なにせ冒頭から『プロジェクトA』の自転車のアレだ)あんまり熱心に見ていなかったのだろうと思う。
 歌詞もストーリーに密着しているので字幕があったほうがいいし。
 それから、シュルティ、美人だけど(南インドのスターなのね)その不幸そうな八の字眉でずるずるくっつき続けるのはいかがなものか、というのもあった。
 後半はよかったと思う。これとか。

 それにしても、プリヤンカ様が上手かった。
 プリヤンカ様ことプリヤンカ・チョープラーは元ミス・ワールドなのだが、同じミスコンテスト出身のアイシェと比べるとちょっと野太い感じで、プリヤンカ様の方が好きなのであるが、けっこう作品は見ていると思うんだけど(『Fashion』がいいと思う)、それにしても別人である。この豪華なアイテムガールっぷりったら。
 ランビールも、前半は「どっちかというと彼女より自分が好きなんじゃないの」という風だったのが、ジルミルと一緒になってからのほうが断然いい。そこまで考えてやっていたのなら、すごいと思う。いやランビールも上手いんだけど。
 音楽はプリータム。要所要所でバンドが現れるのが『Life in the Metro』と同じで出てくるたびに笑ってしまった。監督、これが好きなのね。音楽は違う感じなのだが、ギターはプリータムだったのかなあ(よく見えなかった)。全編音楽劇のような雰囲気もある。音楽まとめがこちらに。
 ダージリンってきれいなところだなあ。お茶畑もあるし、行ってみたいな(牛が茶畑でもぐもぐしていたのが個人的にツボ)。田舎もよかった。
 あと、隠れた見所は「老けメイク」だと思います。

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