« 羽仁未央さんの『香港は路の上』(1988) | トップページ | 日本公開熱烈希望『無涯: 杜琪峯的電影世界』 »

『消えた画 クメール・ルージュの真実』

 初めて会ったカンボジア人は、大学院に治水を学びに来た留学生だった。ちょっと家を空けている間に家族全員が連れ去られ、一人だけ生き残ったと言っていた。90年代のことだったので、内戦が終結してから、ほとんど初めてに近い国費留学生だったと思う。
 当時、カンボジアについて知っていることはあまり多くはなかった。

 ポル・ポト政権は1975年4月17日から1979年1月7日までカンボジアを掌握していた。プノンペンに住む人々は地方に強制的に移住させられた。そして、知識層・旧体制関係者、裏切り者とみなされた人々が200万人以上、国民の5分の1近くが殺されたという。
 『消えた画 クメール・ルージュの真実』のリティ・パニュ監督は1963年生まれでプノンペンに住んでいた。パンフレット(文章が多く読みでがある)で知ったのだが、父は教師を経て文部官僚となった「革命の敵」側の人間だったという。兄はギターを弾いていたことから反革命と見なされ1975年4月17日以来行方不明、父は絶食して死を選び、母と姉は病死した。
 『消えた画 クメール・ルージュの真実』は、朽ちながらも残されたフィルム(ほとんどがポル・ポト政権のプロパガンダ映像)と「死者を埋めた田」の土で作られた人形によって作られた映像で、監督の記憶を、消えてしまった映像を再現しようとした映画である。
 公式サイトはこちら

 予告編。

 土人形によって再現された過去は、内戦前のプノンペンの楽しかった記憶から始まる。しかし、すぐにプノンペンから移住させられ、性別と年齢で分けられ、持ち物はスプーン1本以外は所有することを許されず、髪を切られ、名を変えさせられ、服はすべて黒く染められた。しかし、映画では監督の土人形だけは鮮やかな色のシャツを着ている。
 プロパガンダ映像では、幹部たちはいつも笑っており(実際に恵まれた生活をしていたらしい)、人民は理想に燃えて労働に勤しんでいる。しかし、土人形は「生き生きと表現豊かに(と監督がパンフレットのインタビューで語っていた)」実際にあったことを描く。
 特に胸に堪えたのは、マンゴーを採った母が9歳の息子に告発され森に連れていかれ戻ってこなかったことや、現在の監督が映っているテレビを「こんなことを言って…」と両親が笑いながら見ている場面だった。
 実際には、残虐なことは映画で描かれた以上に数限りなく行われただろう。
 帰って来て録画してあった「大量虐殺をどう裁くか」というドキュメンタリーを見直した。現在、カンボジア国民の3分の2がポル・ポト時代を知らない世代らしい。しかし、40代以上の人はこの時代を生き延びてきていることになる。
 理想的だが非現実的なスローガンを掲げ、自分たちは安楽にしながら自分たちより弱い他者に辛苦を強いて支配欲や隠れた劣等感を満たそうとしているように見える人々の気持ちは全く理解できないが、同じようなことは、昔も今も世界のあちらこちらで起こっている。
 リティ・パニュ監督は「カンボジアの虐殺について描く仕事に集中していく」とインタビューを結んでいるが、これは、カンボジアだけではなく、世界のどこにでも起こりえる話なのだと思う。
 カンボジアに行く機会(実はほぼ確実にある)があったら、見るべきものは見てこなければならないと思ったのだった。

 内戦前のカンボジア映画はほとんど残っていないのだが、実は、『怪奇ヘビ男』という映画が残っていて東京の映画祭で公開され、これが、めちゃくちゃ面白いらしい。最近の映画だと『遺されたフィルム』という映画が若い監督によって2014年に作られ、今年の東京国際映画祭で公開された(記事はこちら)。
 今回の『消えた画』は、いつもお世話になっているシアターキノさんが「太秦コレクション」として3日間だけ公開してくださったもので、実は最近体調がよろしくなく仕事を極力減らしている状況ではあった(そのため太秦コレクションの『GF*BF』は涙を飲んで見送った)のだが、これは無理をして行った甲斐があった。
 できれば、『怪奇ヘビ男』と『遺されたフィルム』も見たいのだが、何とかならないだろうか。できれば、セットでソフトを出してくださると、とてもとても嬉しいのだが。

|

« 羽仁未央さんの『香港は路の上』(1988) | トップページ | 日本公開熱烈希望『無涯: 杜琪峯的電影世界』 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/32405/60830676

この記事へのトラックバック一覧です: 『消えた画 クメール・ルージュの真実』:

« 羽仁未央さんの『香港は路の上』(1988) | トップページ | 日本公開熱烈希望『無涯: 杜琪峯的電影世界』 »