『インド映画完全ガイド マサラムービーから新感覚インド映画へ』
ここしばらく、繁忙期だったり、この連休は家庭の事情で忙しかったり。
しかし、この本のことは紹介しなければなりますまい。
ついに出ました。届くや否や、嘗め回すように読んだ。
こちらに書いた『インド映画娯楽玉手箱』(キネマ旬報社)から15年、本当に久々に出たインド映画の本である。
編集のご苦労については、こちらでかいま見ることができるのだが、書かれた以外のご苦労もたくさんあったと思う。
本当に労作である。
目次は、序章:いま、インド映画が来てる!、第1章:インド映画のここに注目!、第2章:インド映画のスター、第3章見ておきたいインド映画ベストセレクション、第4章:インド映画の全貌、第5章:インド映画の多様な要素、第6章:インド映画を知るためのデータと資料。合間に、「この未公開作品がすごい!」というコラムや、監修の松岡環さんが撮ったインドの映画にまつわる写真のページも。
執筆は、監修の松岡環さんはじめ、編集が佐野亨さん・夏目深雪さん、執筆がアルカカットさんこと高倉嘉男さんなど、錚々たる方々が書いている。次郎丸章さんがお元気そうでよかった。松岡環さんとグレゴリ青山さんと次郎丸章さんは、1998年の『旅行人』インド映画特集でインド映画のことを教えていただいた(そしてそのコピーを握りしめて重慶マンションに初めて行った)ので大恩人なのであった。
序章では、『きっと、うまくいく』『マダム・イン・ニューヨーク』『めぐり逢わせのお弁当』『女神は二度微笑む』が評論つきで紹介され、第1章では、『オーム・シャンティ・オーム』が「ソング&ダンス」、『ダバング』が「スターシステム」のように、最近公開されたインド映画(『DDLJ』は国立民族学博物館で公開されたけど、一般公開またはソフト発売はないのだろうか?)とインド映画の様々な側面が関係づけられて紹介されている。第4章では、「新感覚のインド映画の誕生」に始まり、「ヒンディー語映画」「マラーティー語映画のいま」「テルグ語映画のいま」「タミル語映画のいま」「カンナダ語映画のいま」「マラヤーラム語映画のいま」が紹介されている。ヒンディー語映画以外の言語のインド映画がちゃんと紹介された書籍は初めてではないかと思う。
『3 idiots』が日本公開される前だったと思うのだが、『ムトゥ』を見ていた(らしい)ある映画評論家の方が、「有名な俳優が出ていない(アーミルもカリーナも大スターなんですけど!)」「歌も踊りもない(ありますけど!)」と『ムトゥ』と比べる形で評論を書いていて、タミル映画もヒンディー映画もまぜこぜで、自分の見たものだけで「インド映画らしさ」を論じていたこともあった(こちらに書いたのだが、周防正行監督も『インド待ち』で同じような書き方をしていてがっかりしたことがある)ことを考えると隔世の感がある。
特に勉強になったのは、監修の松岡環さんが書かれている第6章「インド映画を知るためのデータと資料」で、恥ずかしながら、私、インドの州の名前はなんとなく聞いたことがあっても場所がちゃんとわかっていませんでした。インド映画の歴史と年表もとてもありがたい。インド映画はインドの大衆演劇から演目や様式を取り入れていたのでサイレント時代からミュージカルの萌芽があった(167ページ)のか。
アルカカットさんの書かれた「インド映画の映画法とCBFCによる検閲」で、いつもインド映画の最初にばーん!と出る書類の意味が初めてわかりました。「宗教」の項で『OMG Oh My God !』(日本公開希望!)が紹介されていたのも嬉しかった。
索引もばっちりあるし、「日本で公開されたインド映画リスト」や「日本でソフト化されたインド映画リスト」も大助かりである。数えてみたら、うちにある「日本語字幕のついたインド映画」は20世紀末から買い集めたものとテレビ放送を録画したもの(VHS録画で今は見られない『ラジュー出世する』(再ソフト化熱烈希望)を含む)を合わせて50本に達することがわかった。2010年以降のインド映画の日本公開数はやっぱりすごい!と思う。今後もっと増えてくれることを切に願う。
編集がむずかしかっただろうなあと特に思ったのは「第2章:インド映画のスター」である。ベテランもがんばっていて若手も台頭している今日このごろ、誰を選びどのような順番で載せるかを決めるのは大変だったと思う。
しかし、そうは思うんですけど、うちのイルファン・カーンが入っていなかったのは、心の底から残念であった。あと、リシ・カプールとかボーマン・イラーニとか、おっさんな人々は載せてほしかった…と思う。ナワーズも。
塩田時敏さん(札幌出身だったのか!ゆうばりファンタでジョニー・トー監督のトークイベントの司会をしていたのはファンタの最初から関わってらしたからなのか)がインド映画のアクションについて書いてらっしゃるのだが、古くから香港映画のアクションが取り入れられているとか(『RA.ONE』では『少林サッカー』が思いっきり引用されているし)など、いろいろなものを積極的に取り入れていることに触れていただけると、もっとよかった。写真が入っていた『ダバング』のシーンは『マトリックス』だと思うし。
2000年に出た『インド映画娯楽玉手箱』には、俳優だけではなく監督やスタッフを事典のような形でまとめたページがあって大変重宝したので、いつか、監督やバックグラウンドシンガーなどの特集が入った書籍を出版してくださると大変嬉しい。
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